&[wlid life]特殊任務

《トランス姿で自宅の飼育生物の撮影立会いをせよ》
 今月の初頭に知り合いのペットショップから依頼された話である。
「そちらで飼っている蛇を撮影したいっていうカメラマンがいるんですよ」
そのヘビというのは日本にはほとんど輸入されていないらしい。5匹いるかいないか、そんな程度だという(別に高価なものではない)。そのうちの一人である私に白羽の矢が立った。なんでも「特定外来生物法」施行に伴うパンフだか雑誌の特集だか、それを製作するにあたって必要らしい。撮影を希望するカメラマンの名前もいくつかの生き物雑誌で目にしたことがある。
 話を聞いて真っ先に「面倒だ」と思った。遂行は不可能ではない。が、なかなか煩雑であるし、なにより「家族および近所バレ」というリスクを背負うことになる。もっとも、「素」で応対すれば明日にでも大丈夫な話であるが、私の「生き物関係の人にはトランス姿で通す」というチャレンジをここで曲げるわけにもいかないのだ。すぐに断ったが、店主はどうしても、と食い下がる。まったく、私に何か利がある話ではないし・・・。結構有名なカメラマンと知り合いになれるのはとてもイイと思うが、それ以上にお膳立てが大変なのだ。あまり気が進まない。とりあえず「前向きに検討」ということで話を切った。私の部屋に勝手口があるから十分に可能な任務ではあるものの、仕事が終わってからというのはなかなか気力がいる。後日、何度か店主から電話があった。まったく、面倒な話だ!と思いつつも承諾。さて、任務遂行にあたっての算段を考えなければならない。決行日は追って連絡するということにした。
 現状だが、トランスに関して母親は気がついていると思う。部屋には通販雑誌がちらほらをおいてあり、あまつさえ女物の服が見え隠れしていることもある。おそらくは黙認状態であろう。とはいえ、おおっぴらに晒すことはできないし、したくない。普通に玄関から出入りはありえない。で、私の部屋には自由に出入りできる勝手口があるが、ここから外出するというコトを今までにやったことがない。いつの間にか部屋から消えたなんて事態は好ましくない。家族が不審がるのは明らかだ。ただし、友達をここから入れるというコトは何度かやっている。結論としては、友達を迎えに行くという口実で玄関から外出し、クルマでメイクルームに向かう。そこで支度をしてカメラマンと別の場所で合流して自宅へ向かう。しかるのち部屋の勝手口から部屋に上がる・・・という段取りだ。無論、親には
「ちょっと生き物の撮影するからお茶も何も出さなくてイイ!」
「終わり次第また送っていく」と強く言ってある。

 そして決行。仕事が終わってから帰宅。夕食後、荷物一式をまとめてメイクルームへ直行。服装は念のためにおとなしめでチョイス。念には念を入れ、スカートを避けてパンツにする。ヒゲの脱毛後のため、肌状態が良くないのが気になるがやむを得ない。
 支度を済ませて自宅近くの合流地点へ向かう。予定時間より遅れている。既に向こうのクルマが到着していた。私がこんなキャラだとは知らされてなかったらしく微妙に驚いている様子。簡単に自己紹介して自宅へと直行する。
 非常に緊張する。こんな早い時間に家の近所に来るなんて。部屋に入るときもどきどきしっぱなしだった。万が一ということもある。この姿を見られてしまっては言い訳が立たない。杞憂は杞憂に終わって無事に部屋に到着。「散らかってますけど」とお決まりの挨拶もそこそこにさっそく撮影準備。いちおうこちらのプロフィールや撮影日が大幅に遅れてしまった理由などを軽く話す。別に気にされている様子もない。ビジュアルメイクの時の写真などを参考に披露すると「ライティングが上手いですね」と。さすがカメラマンである。
 一辺が1m弱の白い箱を組み立てて撮影ブースとする。そこに生体を投入して撮るのだが、そう簡単にいくものなんだろうか?という疑問もあったが、そこはさすがにプロ。小さな空箱を利用してうまく生体を誘導している。空箱を被せておいて、箱を取った瞬間に手早く撮影などといった見事な技法を数々披露してくれた。箱さばきとでもいうべきか?ちなみに私がやった作業はヘビをケージから出す・戻すだけである。
 別の用事があるらしく、早々に退出。お土産に英国製コースターを渡す。見送りしてから再びメイクルームに向かった。そこでメイクを落とし、素に戻る。そして、帰宅。
これにて任務完了!