異邦人「既知外」

 10日に搬入。11日に催事開始。いつものことながら大変である。しかも人数が減っているのだから余計に大変だ。売り上げのこともあるので、いつもは常設のパートのおばちゃんを前線に出し、私は後方任務(常設売り場の留守番)に回されることになった。楽といえば楽だが、勉強にならない。でも、しんどいからなぁ・・・。まぁ今回はヨイ、ということで暇といえば暇な時を過ごす。
 この日は土曜日ということもあり、私も催事会場と常設を行ったり来たりと忙しい。お昼ごはんもかなり遅かった。一息ついた午後6時過ぎ。やつは訪れた。最初は少し向こうの売り場にその存在を確認していた。けっこう長い間滞在している。売り場の女の子のうんざりしている様子。「あの手合いはなぁ・・・デパートじゃなかったらなぁ」としか思っていなかった。また変な客が来ているなとしか思っていなかったのだが、そいつが私の売り場にきたのだ。つい目が合って微笑んでしまった。しまった、やっちまった、と思ったときにはすでに遅い。きやがった。
 話しかけてきた。コイツ、ちょっと違う!普通のキチ○イなら黙殺や無視で適当に退散するのだが、まったく動じない。なんというか、芸人のココリコ田中のようなしゃべり方で迫ってくる。しかも妙に舌がまわりやがる。挙句に値段を教えて欲しいという。プライスみりゃ分かるやろうが。
 「これ、1枚10万としたら、10枚あったらいくらになる? それだけ教えて欲しい!」と言う。ちなみにプライスには5枚で¥105000(税込み)とある。税込み表示だけにややこしい。うっかりまともに受け取ってしまい、こちらが少々混乱してしまった。100万とか105万とか答えても「違うなぁ」と渋い顔をして変な逆ギレをされるだけ。無視しても「答えるまで帰らない」。電話で呼び出された振りをしても待ってやがる。奇襲的に私がわけのわからないことを口走っても、まったく動じない。こいつ・・・・・・マジで居座る気か? ますますペースが乱されて、思考がまとまらない。このキ○ガイ野郎めっ!と怒りがこみ上げるだけだ。ほんと・・・・・・・・・・デパートの外だったら、文字通り
叩き殺す。
包丁を持ってようがナイフを持ってようが、必ずブチ殺す。

レンガで思い切り撲殺してやりたい、他ではどこでも相手にされない精神異常者め。まったくデパートというのはこの手の頭がオカシイ奴が多い。DQNとはまた違うのだが、非常に鬱陶しく腹立たしい。今回は鬱陶しいだけでは済まなかった。これだけ怒るということは、普段、どれだけ見下げているかということの表れでもある。精神異常=何をしても無罪みたいなところがあるので余計に、だ。

と思うくらい、
それくらい怒り心頭だった

多少はその怒りが伝わったのか、むこうも少しおとなしくなったような気がした。そこで「105万」と答えると「やっと答えられたな」とか満面の笑みで返しやがる。
ようやく売り場から出て行きやがった。

 さて、他の売り場ではどうやって対処しているのだろうか? デパートというところは本当にこの手合いが多い。普通の店舗なら即、摘み出されているところ、のうのうと居座ることができるからだ。彼らには何がどう見えているのか、不思議でならない。そういえば、ちょっとヤヴァゲな年寄りもたくさんいる。昔の話を、あるいは経験を繰り返し繰り返ししゃべる。もちろん何も買わない。まったく疲れる様子がない。当然、相手なんかしてられないので適当にあしらう。CDかテープレコーダーか、もはや何も新しい記録はできない、ただ生きて動いているだけ・・・なんだろうか。長生きも考え物だ。

 そういえば、さっきのキチ○イ野郎・・・・・・眼が澄み切っていた気がする。まるで水晶玉をはめ込んだ感じだった。純粋というのは、これほど怖いものだとは。