会社の送別会

 今日は先輩の送別会である。会場探し、参加者集め、段取りetc。思ったよりも大変だった。もっとも、私は3月末4月頭の期間は会社にいなかったため、主だったところは他の人がやってくれていたのだが。私は司会進行役で挽回させてもらうことに。
 会場は中堅ホテルの宴会場である。ちょっとした披露宴みたいな感じだ。きちんと看板まである。おまけに仲居さんまでつく。業界でもこれほどの送別会はないだろう。ちなみに料理は中華である。もはや定番・お決まりの「焼肉」を脱却し、それなりに腹を膨らませるにはこれしかない。これで一次会は問題ないだろう。あとは二次会。私の出し物もきちんと考えてある。メインは「マツケンサンバⅡ」である。あのキンキラキンの衣裳は予算の都合で断念したが、かわりにアフロと変わったサングラスでカバーすることにした。また、念のためにいくつかの曲なり替え歌なり準備しておく。

 さて、開始1時間前。会場入りして準備を整える。今日の主役である先輩も緊張しているようだ。私も緊張している。ネタや挨拶の口上などをチェックしながら気を紛らわす。そうこうしているうちに客が一人、また一人と来場し、席が埋まってゆく。予定はおよそ60人。なかなか壮観なものだ。やはり皆、従来とは違う会場の雰囲気に驚いている。さぁて、そろそろ司会を務めるか。

「本日はお忙しい中お集まりいただきましてまことにありがとうございます。まず、〇×(会社名)の若主人からみなさまにご挨拶がございます。〜ありがとうございました。続きまして、〇×(会社名)を卒業する▽□からみなさまにご挨拶がございます。〜ありがとうございました。では、〇×(会社名)OBである〇●大先輩に乾杯の音頭をとっていただきます。みなさま、準備はよろしいでしょうか? では、よろしくお願いします」

といった具合に喋る。こうして一次会が開始となった。

こうして宴会がにぎやかに始まったメインの2人がビール注ぎに精力的に回る。もう最初からドカドカ飲まされている。最初は料理に舌鼓を打っていた人も段々と活発になり始め、席をあちこちに移動しまくっている。私は立ったり座ったりして会場の様子を見守っている。中井さんに混じって飲み物を持って回ったりトイレの案内をする。司会という立場上、また前回の送別会で飲まされてぶっ倒れたことから、今回はターゲットからは外されている。
 会場は時間が経つにつれて徐々にヒートアップしてきた。かなり酔いが回っている人も出てきた。焼酎瓶片手にあっちにいったりこっちに来たりする人、炒飯を大皿ごと食べ始める人や訳の分からないカクテルを作る人などなど・・・。こんなところでも上下関係が厳しいもので、やはり後輩の立場の者がイヂラレている。

 宴もたけなわとなったところで、2次会に移行。本来ならば二次会場は別の店にすることがほとんどだが、今回は同じ場所ですることにした。別室を用意し、区切りはつくようにしている。さて、私も出し物の準備をせねばならない、ということでしばし姿を消す。再び登場した時はアフロヘアーにふざけたサングラス・・・本来ならばマツケンサンバのラメ衣裳でも着たかったところなのだが、予算がそれを許さなかった。すでに自腹も切っている状態であるし。で、さっそく今回のメインである「マツケンサンバⅡ」を歌おうとしたのだが・・・・・・入っていないのだ!予想外の事態。せっかく振りつけまで練習したのに・・・。止むを得ないので予備ネタの「宇宙戦艦ヤマト」を替え歌で歌う。独立する2人をちょっと茶化した内容だ。それなりに受けたように思う。とりあえずこれで勢いがついたのか、(一部の人だけだが)訳の分からない盛り上がりになる。私は選曲や雑用やらで忙しい。酔っ払い相手だし、正直、嫌になる。合間合間で「ヤットデタマンヴギウギレディ」などを歌ってテンションの維持に努めた。二次会の最大の不安は「時間以内に終われるか」ということだった。この妙な盛り上がりが気掛かりで、ズルズルと延長してしまうのは回避したかった。いろんな懸念はあったが、最後に他の店の若主人に「乾杯」を歌ってもらうことを区切りにし、フィナーレを迎えることができた。ああ、やれやれ・・・。気疲れでクタクタだ。あまり飲んでいないがどっと疲れてしまった。

 会場を出て、そこから3次会である。メンバーはバラついているが、私は店の若主人と今日の主役の2人に付かないわけにはいかない。さすがにふたりともグダグダである。しばらくするとO先輩がしゃがみこみはじめた。・・・戻した。いや、飲まされ方では止むを得ないだろう。それよりも間が悪いことに、戻した店先の店主と鉢合わせしたのだ。店先を汚されて怒る店主。私は即行イラついてが、さすがの若主人がおとなしく謝っている。けっこう酔っている他店の子もブツクサ言いながらも後片付けをしている。店先から水を出してもらい、皆で下水に流す。一段落である。さて、これで3次会に向かうかぁ・・というところでまたもやハプニング。他店の子と道路際でふざけあっていたJ先輩がその子の眼鏡を落としてしまったのだ。そうしたら、たまたまそこにタクシーが走ってきて・・・ガチャリ。眼鏡の子本人よりもJ先輩の方が怒り心頭で、暴れ始めたのだ。タクシーは一瞬停まったが、この調子では運転手とややこしくなりそうなので、皆で「もういいから」とタクシーをどこかへやった。3人がかりでJ先輩を止める。他の店の人がもう一人いたので助かった。めずらしく大声を出す若主人「おまえ、いい加減にしとけっ!!」。O先輩「オマエ、オレのいうことが聞けんのかぁ!!」。なんとか鎮圧?して、3次会へと赴く。といってもミナミの繁華街を歩いていくわけだから、まだまだ油断はできない。どうもJ先輩はお酒が入ると妙に攻撃的になるので困る・・・。

 ようやく3次会。既に皆はバラバラ。ひとまず私と先輩2人、多店の人2人、そして若主人の一団は若の先導のもと3次会会場へとついた。そこはキャバクラ。なんか大きいところだな。しかもちょっと高級そうだぞ。私は行ったことないからなぁ。微妙に緊張する。皆でドヤドヤ入る。カウンターでの会話を聞いていると、若はここの専務と知り合いらしい。なるほど。とにもかくにも初キャバである。たしかにカワイイ子やきれいな子が多い。しばらくすると緊張も解けてきた。そのうち、若主人に呼ばれて近くの席に移動することになった。
「オマエ見てるとオモロイなぁ」。
「いやぁ、たっぷり楽しませてもらってますぅ」。
「コイツ、初キャバやねん。かわいがったって」

なんだかんだで盛り上がる。女の子が変わるたびに電話番号を聞け!教えとけ!とか、若主人からいろんな注文が来る。アフロもまたやった。話の合間に周りを見やるとO先輩はメチャクチャ愉しそうだ。J先輩はやっと回復してきた感じ。ナンにしてもいろんな女の子がいるな〜と感心。さすが客商売。こりゃハマるのも分かるわ、と。
 
 2時間ほどいただろうか。夢のような時はあっという間に終わった。送別会の幹事も終え、酔っ払いの相手もしなくて済み、気兼ねなく愉しいひと時を過ごすことができて本当によかった。何より、この3次会でお開きになったので助かった。これでまたどこかに飲みに行ったりしていたら体が持たない。

 ひとつの大きな境い目。これでもう、先輩は店にいない。実質的な戦力の減少。店の中で私のポジションはより重要になってくる。もちろん、それに伴う責任も増すワケだ。先は長い。激動たる一年を迎えようとしている。