逝ってくる其2

奥の院へ・・・

 起きた・・・・・・というか横になっているのを止めた。うーん、8時くらいか。少しはうつらうつらしたような気がするが、ほとんど寝ていないと思う。起き抜けでボーッとしていると漁協の見回りのクルマが通過していった。しばらくしたらまた戻ってきた。わざわざチェックしにくんなよなぁと思いつつも「釣りなんかしてません」と‘回答’。朝からむさ苦しいオッサンなんて見たくないもんだ。やれやれ、とりあえずメシにでもするか。即席ゴハンをふたつばかり、熱湯に放り込む。ツナ缶をオカズに朝飯。バナナがデザート、そしてお決まりのコーヒー。ふぅ。地図で行き先を確認後、高野山に向けて出発した。
 山道を再びグルグル。ところどころ工事で片道規制していたり落石していたりしている。それにしても杉ばかりだな。一度道を間違えたものの、一時間ほどで高野山・中の橋駐車場に着く。高野山一帯の観光の中心地だ。駐車場もタダである(ネットで下調べして知った)。ナップサックにバナナと飴とタオルを放りこんで、歩きの準備だ。天気も良い。3通りくらいコースがあるが、全行程を歩くコースを迷うことなくチョイス。往復2時間くらいである。駐車場近くの案内図で確認した後、コースへと足を踏み出す。まずは国道沿いに10分ほど歩いて、「一の橋」というスタート地点へ行かねばならない。既にその道からし異世界の雰囲気をかもし出していた。
 道路とは垣根ひとつ隔てているだけなのに、もう世界が違う。杉木立の中、燈篭や石碑、石仏が並んでいる。このあたりのものは新しいものだが、それでも十分に雰囲気は違ってくる。途中「蛇柳供養塔」というのを見た。「高野山の蛇柳」というのは実はマンガで知っていたのだが、もともとは処刑場跡地らしい。そこに生えていたという柳の巨木。そして高野山に古くから根付く蛇神信仰・・・。ちょっと妖気漂う感じである。ちなみに、同じ和歌山県にある南方熊楠博物館に「蛇柳の木片」というのがある。南方熊楠が採取したものらしい。
 さて、一の橋から奥の院へと向かう。川というのはこの世とあの世の境界線的な意味合いがあるという。石畳を一歩一歩進んでいるわけだが、樹齢200〜600年からの杉の古木が鬱蒼とこの霊場を覆っている。大小様々な墓碑、宝塔、石碑etc。新しいものもあるにはあるが、そのほとんどは雨風にさらされ、苔生し、どれほど古いものか分からない。おまけに小さな仏塔や地蔵が至るところゴロゴロしている。荘厳でもあり空虚でもある。あの世に通じる意味での幽玄とは「限りなく暗く、それでいてはかない」というが・・・・・。死者が安らかに眠る石墓と大樹との世界にポツンと唯独り。この世ならざる聖域。今の私にはちょうど良い。今の私が一度死に、今一度甦る。大袈裟かもしれないが、とことんこの身を沈めてみたいのだ。そんな行き着く先が、奥の院。・・・・・・と、時間が経つとちょっと観光客が増えてきたな。気分壊れるなぁ。でも、ひょっとしたら、行き交う人々の中にもこの世ならざる人がいたかもしれない。ここでは生きてるものも死んでいるものも、すべて等しい存在であろう。
 そして奥の院弘法大師廟。ここから先は飲食・撮影その他もろもろが禁止である。聖域の中の聖域であるからだ。そこで見たのは熱く信仰を捧げる人々であった。弘法大師廟に向かって一心に祈る人々。深く広く響く読経。しばらくそこに立ち尽くしていた。上手く言葉にはできないが、今日も生きる、ということ・・・か。感得などと大仰に書くつもりはない。まぁ生命力みたいなものを感じた、とでも言っておくか。もはや後ろを振向くまい。
 ただ、帰り道、妙に足が重いのだ。そりゃそうだ。また地獄へ戻らねばならんのだからな。言い方は悪いが、喜怒哀楽に満ち溢れる生き地獄・・・。社会の荒波の中へ再び舞い戻るのだ。気持ちはまだ後ろ向きだ。いや、そのためにわざわざここに来たのだからな。非日常に活力を授かる。すがりたいわけじゃない。自分を信じたい。そのために必要だった。そして再び、一の橋を渡った時に世界は違って見えた・・・・・・んなワケないし(´Д`)
 また来ることもあろうが、その時はこんな気持ちで来ることはないだろう、と思う。


 というわけで高野山奥の院参りは完遂。次は道成寺にでも行くか、と。ここは高野山道成寺御坊市。100キロほどある。(あの時はよく走ってみようと思ったもんだ)。また山道をグルグルと走る。出発はおよそ2時。そんなに飛ばせるわけもなく、拝観刻限の5時には間に合わなかった上に、場所もわからなかった。次の機会にチャレンジだ。余談ではあるが、御坊市へ行く途中でガソリンスタンドに入ったのだが、店員の若い兄ちゃんがいきなり「タメ口」だったのに驚いた(しかも和歌山弁っぽい)。大阪市内ではまず考えられないことだ。というか、あり得ない。窓もほとんど拭かないし、灰皿も捨てやがらねぇ。ああ、思いっきりローカル。私は思いっきり余所者。そういうことなんだろうか・・・。

 道成寺参拝ができなかったので、御坊市を発つことにした。42号線で有田市海南市へと沿岸に沿って進んでいく。そこからまた東方面に向かい橋本市へ。あとは往路と同じ道のりを辿るだけである。また、ネットの知り合いのみけさんが四国へ旅立つ日だったので見送りだけでもしようと、梅田へ急行。何度か道に迷うが、時間的にギリギリで到着。そして運良く駅前ビルのところに駐車できた。ことの次第は日記で読んだ、とか言われてしまったので、事の次第を話す。旅行前にこういうことを話すのも気が引けたんだけど、つい。でも、この時点では既に会社に戻ることを決めていたので。

 見送った後、SWitchで夜食を作って食べる。ツナとゴハンを炒めただけのツナゴハン。しかるのち、そこいらのコインパーキングで車内泊。和歌山の夜に比べるとはるかに暖かい。