死んでしまった、か

 起きたら、ヘビが死んでいた。昨日までは生きていたのに。

口を開けて体がよじれ気味になっている。この死に方は水不足。
水容器は空っぽだった。

昨日のあの時、姿を見た時に水をあげていれば。せめて霧吹きしておけば
死なずにすんだ、かもしれない。
「明日でいいや」に生き物の命を賭ける。相変わらずだ。

とても珍しく、良いヘビだったのに、それを喪ってしまった。
ミドリオオガシラという。
まさに「他の誰も飼っていない。」そんなヘビだった。

本体が死んでしまえば幻想なんて色あせたもの。
「飼っていた」という過去形なんて意味がない。
結局、本体なくして幻想は成り立たない。
無から有は生まれやしない。媒体があってこその
幻想だ。


失った事実が湧き出る虫のように折に触れて思い出す。
悲しくはないが、喪失感がつのる。
死体を処理したのは三日後だった。ケースを見る気さえ
しなかった。腐臭がしても全然気にしない。
もう終わってしまったことなんだと。

でも、本当に終わらせるために、埋めてきた。
埋めることだけが、私にできることだからだ。
ケースもきれいに掃除して痕跡を消した。
残ったのは脱皮殻と記憶情報だけ。

ごめん、私の方が先に死なせてしまったよ。
あんなぞんざいな飼い方では無理もない。
アンタの方に飼ってもらえば良かった。